光の瞑想2024 開催レポート

⚫️会期 :
[ 前期 ] 2024年10月15日(火)〜17日(木)
[ 後期 ] 2024年10月18日(金)〜20日(日)
⚫️会場 : マドレーヌ寺院王宮の間
⚫️主催 : ARTEC協会
⚫️出品手配代行 : 一般社団法人芸術共和国
⚫️出品分野(50音順)

アートキャンドル、アルコールインク、アクリル画、グミワックス、コスチューム(ドレス)、コラージュ、スプレーアート、チョークアート、テクスチャーアート、デジタルアート、トールペイント、パステル画、バッグ、ひょうたんランプ、フォトアート、ファブリックアート、ペン画、ボタニーペインティング、ミクストメディア、レジンアート、押し花、水彩絵具、書道、工芸、刺繍、色鉛筆画、水彩画、水墨画、染色、銅版画 メタリックペン画、日本画、麦わら細工、木版画、墨絵、油彩、立体ワイヤーアート、蝋画(テクスチャーアート)

 マドレーヌ寺院内の展覧会場「王宮の間」は、パリの中心にある有名な観光施設でありながら、多くが謎に包まれています。マドレーヌ寺院の司祭が鍵を管理しているものの、利用にあたっては別の組織が管理しており、一般への施設貸出は行われていません。管理組織も非公開になっており、連絡先を知ることさえ出来ません。 

「光の瞑想」の会場となった王宮の間の左右壁面と奥には、数え切れない扉と地下通路がどこまでも伸びています。1週間いても場所を把握出来ない照明のスイッチは特殊な形状で、預かった鍵でしか点灯出来ない箇所もあります。様々な備品が置かれた通路は照明を点けても薄暗く、蜘蛛の巣だらけで、実際、日本では見かけない脚の太い大きな蜘蛛がいて、作品の箱の中に紛れ込んでいることもありました。
  “中世そのまま”とご説明したこの聖域には、中世から時が止まったままの清浄さと澱みを併せ持った生々しい空気が滞留しており、そんな雰囲気も本展の醍醐味であると云えます。
 王宮の間が日本のアーティストのために開放されたことは、もちろん快挙と言えますが、この会場でしか表現出来ない«現在地を超越した瞑想のための効果»が現代日本美術によって神秘的に増幅される機会ともなりました。

 14日、主催者であるARTEC協会メンバーのアーティストにもご協力いただき、展示作業は完了しましたが、プロフィールパネルや看板設置が間に合わず、15日の開館前から作業を続け、早くからお越し頂いた出展アーティストの雷彩様に協力頂き、無事オープンを迎えました。

 展示における最大の難関は、今年初めから会場が閉鎖されていたため、壁面の正確な計測が行えなかったことです。そのため、以前開催された展覧会のデータを参考に、長さを推測するところから始めました。しかし、実際には凹凸の激しい壁面や、管や装置が入り組んだ壁面もあり、あくまで目安と想定により見切り発車せざるを得ませんでした。
 現場に来て初めて、ピクチャーレールが付いていない部分があることを知り、レールの高さもバラバラ、場所によっては針金のようなものが垂れ下がっているだけの壁面も多く、正常に展示するにはピクチャーワイヤーだけでなく、さまざまな手段を取らなければならないことが分かりました。さらに、石壁の凹凸によって作品が当たって傾いてしまう場所や、穹窿が低くて作品が安定しない場所もあり、角吊棒2本で固定が必要な壁面もありました。かと思えば、壁にネジが既に刺さっている部分もあり、これはそのまま利用できましたが、隣の作品と高さが合わないのが難点でした。
 ほとんどの作品を別々の方法で展示せざるをえない展示は、私の34年の経験でも初めてで、たいへん勉強になりました。以前は石壁に直接展示することを諦め、パネルを設置して展示していましたが、それだと多大な設営コストがかかり、出品料に転化されてしまいます。また、石壁を利用しないなら、この会場での展示の価値も問われるのではないかと判断致しました。
 幸い、会場には大きな展示台が備えられており、ARTEC協会から彫刻展示台も複数提供されたので、立体作品の展示には困りませんでした。しかし、奥の一部屋が余ってしまう想定外の事態となりました。壁面不足を避けるため、展示数には余裕を見ていましたが、前期後期合わせて200点を展示できたことを考えると、とてももったいないことをしました。
 空きスペースが出てしまったため、急遽、13日まで開催されていたフランス人アーティストの大きめの作品をお借りして間を埋めることになりました。本展にはもともと11名のフランス人アーティストにご参加いただいていましたが、さらに5名、10点の作品を追加することになりました。

 13日までフランス人アーティストの展示が行われ、看板が飛ぶほどの強風に見舞われましたが、15日は嘘のように晴れやかな天候でした。温暖な気候にも関わらず出足は悪く、午後から少しずつ増えました。ヴェルニサージュは予定通り18:00よりスタートし、日本からお越しになった出品アーティストとご家族やお連れの方も含めて日本から20名以上、主催者ARTEC協会中心メンバーを筆頭に、フランス人アーティスト、国立美術館連合認定造形師のブノワ氏など多数のご参加がありました。
 この夜は礼拝堂でイベントがなかったため、早くから門が閉じられてしまい、参加者が会場に閉じ込められるアクシデントも発生。小雨も降りしきる中、皆様にはご迷惑をおかけ致しました。

 17日の15:00から後期展示への入れ替え作業を行い、事前にご協力を申し出てくださったご出品アーティストの陽伝様、SAORI CHIBA様にお手伝い頂きました。本来は清水と現地スタッフ2名だけで展示する予定でしたが、清水が体調不良だったこともあり、大変助けられました。
 温暖な気候が続いていましたが、18日の後期展示から一転して冬型の気候となり、コートが必要な寒さに加え、雨風が強い日が続きました。それでも、18日の夜の2回目のヴェルニサージュの時間には雨が上がり、日本からご出品のアーティストやパリ在住の日本人アーティスト、ご家族やお連れの方を含めて20名弱が来場。主催者ARTEC協会中心メンバーやフランス人アーティスト、礼拝堂を訪れた現地のフランス人の飛び入り参加もあり、賑やかな会となりました。15日のヴェルニサージュに続き、18日もARTEC協会のフランソワーズ・イカール会長より出品証明書の授与が行われました。
 後期展示期間中は天候が悪いにもかかわらず、来場者が途切れることはなく、特に複数人で来場される方が目立ちました。大挙して押しかけるような集客ではありませんでしたが、来場者の質が高く、どなたも真剣に作品を鑑賞しているのが印象的でした。
 日本では報道されなかったようですが、パリ市内の一部は道路が冠水し、洪水注意報も発令されました。実際、会場周辺も夜になって冠水し、通行できなくなった場所もございました。

 日本のアートについて、「素晴らしかった」「とても見事で感動的」「ここでしか見られない内容」「また来年も見たい」との高評価をいただき、価格に関する問い合わせも多く寄せられました。特に日本的な情緒が感じられる書や水墨作品が人気を集め、桜をモチーフにした作品は最も関心が高く、鑑賞時間も長かった印象です。もちろん、称賛されたのは桜や日本的モチーフだけではなく、どの作品にも高い評価が寄せられました。

 価格については複数の問い合わせがあったものの、価格を知った瞬間に断念する方も多かったようです。フランスのアーティストは200~400ユーロに設定されている作品が多く、日本人アーティストの価格は高額とみなされ、交渉を諦めた可能性もあります。最終的に販売成立となったのは、400ユーロの花の水彩画1点のみで、購入者はパリ在住の高齢マダムでした。
 今回の売買成立は偶然の産物です。たまたま礼拝に訪れたマダムが作品を気に入り、価格を訊ねられましたが、その時点ではアーティストが価格を設定しておらず、一度帰宅されてしまいました。しかし、マダムは連絡先を残しており、アーティストと相談して価格を400ユーロに調整したことで購入が決まりました。マダムがバカンスから戻る11月5日頃、現地スタッフが直接作品をお届けし、小切手を受け取る予定です。時間が空いてしまうため気が変わる可能性もありますが、貴重な成約となります。

 受付には当事務局で発行しているアート誌『レピュブリック・デザール』も設置し、初めて知った方やキオスクで見逃した方にご購入いただきました。今後も認知度をさらに高めていく必要があります。

 このような素晴らしい施設での開催が最後となることは誠に残念です。今回も日本人アーティストのために素晴らしい発表の舞台を提供してくださったARTEC協会のイカール会長をはじめ、開催・運営に尽力いただいた幹部メンバーやアーティストの皆様、現地スタッフ、そして優れた作品をご出品いただいた日本のアーティストの皆様に心よりお礼申し上げます。今後も発表の舞台を整え、成果を残せるよう精励して参ります。
 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

追記

 17日の入れ替え作業中から清水が体調を崩し、作業が思うように進まず、ご協力いただいた皆様に多大なご迷惑をおかけしました。発熱や悪寒、喉の痛みに悩まされながら何とか後半を乗り切りましたが、帰国後、コロナに感染していたことが判明しました。フランス社会ではマスクをしない生活がすっかり定着し、感染症と共存している現状です。このような社会のあり方には長所も短所もあるかと思いますが、今回感染したことで、2年前の世界的な混乱を振り返り、特に日本の過剰な反応について再考し、今後は同じ過ちを繰り返さないよう、官民一体で検討してほしいと感じました。